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人生最後のダイエット

SGLT2阻害薬について

当院のメディカルダイエットにおいて、しばしばSGLT2阻害剤というお薬を使う場合があります。最近は、GLP-1受容体作動薬を使う人が増えてきたのですが、それ以前は、SGLT2阻害剤をダイエットに用いたいという問い合わせが非常に多くありました。

実際に、SGLT2阻害剤を使ってみると、体重減少効果が見られるため、今でもSGLT2阻害剤をメディカルダイエットの一つの手段として用いています。今回は、そのSGLT2阻害剤についてのお話です。

SGLT2阻害剤とは、簡単に言えば、余分な血糖を尿として排泄する作用のお薬で、臨床では糖尿病治療薬として広く用いられていますが、そのメカニズムについて、触れていきましょう。

まず、血中のグルコースを細胞内に取り込むには、細胞膜の脂質二重層を通過させる必要があります。親水性のグルコースが脂質二重層を通過する際には、膜タンパク質である特異的輸送体を必要とするのですが、これをトランスポーターと呼びます。グルコーストランスポーターには、GLUT(促進拡散型グルコース輸送担体)とSGLT(ナトリウム/グルコース共輸送体)の2つの種類が存在し、GLUTは濃度勾配に従って受動輸送するのに対して、SGLTはナトリウムイオンによって濃度勾配に逆らいグルコースを能動輸送することができます。

グルコースは、健常者の腎臓では腎糸球体からろ過されほぼすべてが再吸収を受けるため、通常は尿中にグルコースが検出されることはありません。糸球体からろ過されたグルコースの約90~95%が近位尿細管近位部に存在するSGLT2により再吸収されます。吸収を免れた残りのグルコースは、より遠位部に存在するSGLT1により再吸収されます。SGLT1は腎臓以外にも腸管に存在する一方で、SGLT2は腎臓の近位尿細管近位部のみにしか存在しません。SGLT1とSGLT2は、グルコースに対する親和性や輸送に要するエネルギーが異なり、SGLT1は2個のナトリウムイオンとともにグルコース/ガラクトースを輸送する高親和性、SGLT2は1個のナトリウムイオンでグルコースを輸送する低親和性です。このように、SGLT2は、腎臓のみに存在し、かつ腎臓からのグルコース再吸収に重たる役割を担っていることから、SGLT2を阻害し、グルコースを体外に排泄することにより、血糖降下作用のみならず、カロリーロスに基づく体重低下・肥満の改善が期待されるのです。

今までの血糖降下薬は、インスリン投与、インスリン分泌促進薬、インスリン感受性改善薬、インスリン分泌と血糖上昇を同期させるなど、血糖降下作用を発揮させるためにはインスリンの作用を必要としたものでした。しかしながら、SGLT2阻害剤に関しては、インスリンの作用から血糖降下作用は完全に独立しています。そのため、これまでの臨床試験では健常人への単独投与においても、低血糖は報告されておらず、糖尿病症例に対する単独投与による低血糖頻度もプラセボ群と変わらないとされています。このように、インスリン抵抗性やインスリン分泌能の影響を受けないため、糖尿病治療においては、既存の多くの血糖降下薬と併用することにより、相加的血糖降下作用が期待されています。 

また、SGLT2阻害剤によるSGLT2を介したグルコース再吸収の阻害は、尿中へのグルコースの強制的排泄により血糖を低下させる効果を持つと同時に、尿糖排泄閾値を低下させる作用も示されています。SGLT2阻害剤による尿中へのグルコース排泄量は、腎機能および血糖値に依存すると考えられています。

例えば、SGLT2阻害剤のうち、イプラグリフロジンを投与した場合、糖尿病患者では1日あたり90gのブドウ糖が尿中に排泄されるのに対して、健常者では1日あたり59gの排泄にとどまったというデータがあり、SGLT2阻害剤によって惹起される健常人の尿糖排泄は1日あたり55~70g程度に過ぎず、これは糸球体で濾過されるグルコース量180g/日の約30~40%に過ぎません。

要するに、SGLT2阻害剤は、高血糖が著明でない症例、腎機能低下症例においては効果が十分に発揮されない可能性があるということになります。

したがって、安易に誰でも使用すれば良いわけではありませんが、裏を返せば、糖質をよく摂る人で、血液検査で高血糖が疑われる人に対しては、非常に有効なダイエットの補助薬として利用できるということになります。

SGLT2阻害剤による尿糖排泄量を1日あたり60g前後と仮定した場合、およそ白ご飯一杯分の糖質の摂取を「なかったことにする」ことが可能ということになります。

しかし、それ以上の糖質摂取を極力減らさないと、SGLT2阻害剤に頼ってばかりでは、ダイエットは成功しません。

やはり、日々の食事を考えることが、ダイエットにとって必要なことなのは変わりありませんが、どうしても糖質摂取量を減らすのが難しい人の場合などは、SGLT2阻害剤を利用するのも有効です。

平山医師

医師

Hirayama Takashi

いつでも安心して、専門医に相談できるクリニックで、健康的なダイエットをサポートします。