人生最後のダイエット

SGLT2阻害薬のダイエット効果と膵臓の臓器保護作用

今回のコラムは,SGLT2阻害薬のダイエット効果と膵臓の臓器保護作用について,少し専門的な内容や知見を紹介してみたいと思います.

 

糖尿病状態で認められる慢性高血糖は,膵β細胞機能を低下させ,高血糖の遷延化,重篤化を招きます.こうした現象は「膵β細胞ブドウ糖毒性」とよばれ,臨床的にも広く知られています.また,そのメカニズムとしてインスリン遺伝子のきわめて重要な転写因子であるMafAやPDX-1の発現低下が関連していることが明らかになってきています1.2).

肥満2型糖尿病モデルであるdb/dbマウスにSGLT2阻害薬投与による治療介入を行うことによって,ブドウ糖毒性が軽減され,膵β細胞が保護されることが報告されています3.4)SGL T2阻害薬ルセオグリフロジンをdb/dbマウスの10週齢から4週間投与した結果インスリン遺伝子やMafAやPDX-1,Glut2の発現が回復していました4). 更に単離膵島のグルコース応答性インスリン分泌の回復,膵β細胞増殖の増大とアポトーシスの減少を介して,膵β細胞量は増加していました4) . また,別のSGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンにても膵β細胞保護作用が報告されています.この検討においては,SGLT2阻害薬による脂質代謝の改善の間接作用を除外して薬剤の直接作用を検討するため,治療期間は1週間という短期間で施行されていますが,それでも無治療群に比べてエンパグリフロジンにて糖毒性を軽減させた群ではインスリン遺伝子,MafA,PDX-1, Glut2遺伝子など膵β細胞機能に重要なさまざまな因子の発現の増大が報告されています3). 

更に,Ki67での評価の結果,エンパグリフロジンによる糖毒性解除によってβ細胞増殖能も改善を認めています. 以上のような結果から, SGLT2阻害薬は,ィンスリン非依存的に糖毒性を軽減することを介して膵β細胞機能を回復させ,膵β細胞保護作用を発揮することが知られています.

臨床研究においてもSGLT2阻害薬の膵β細胞保護効果が示されています.比較的罹病期間の短い2型糖尿病患者を対象に4週間SGLT2阻害薬であるイプラグリフロジンを投与し,投与開始時と終了時に加え,薬剤の効果が消失した投与終了1週間後にOGTT(経ロブドウ糖負荷試験)を施行することで,各時点での膵β細胞機能が評価されています.インスリン抵抗性の補正も加えた膵β細胞機能を評価するためにdisposition indexを用いた検討の結果,0週に比べ4週では有意な上昇が認められ,その効果は5週においても維持されていました5) . 

以上のような結果から,短期間のSGLT2阻害薬投与であっても,膵β細胞機能を改善させ得ることが示されています.また,こうした結果から糖毒性解除目的で短期間だけSGLT2阻害薬を使用することも有用な治療法になると考えられます.以上のように基礎実験においてもまた臨床検討においてもSGLT2阻害薬の膵β細胞保護作用が示されています.

SGLT2阻害薬による膵β細胞保護効果に加えて,SGLT2阻害薬によりインスリン抵抗性が改善することも報告されています.動物実験においては,通常食20週間混餌投与飼育,高脂肪食8週間混餌投与飼育,摂餌量をコントロール群に合わせた高脂肪食pair-feeding8週間混餌投与飼育において,薬剤効果が消失した状態でもHOMA-IRは有意に投薬群で改善していたことが見出されています6). さらに,pair-feeding 8週間混餌投与飼育において薬剤投与下で正常血糖高インスリンクランプ試験の結果,クランプ中の尿糖排泄を差し引いてもSGLT2阻害薬投与群でグルコース注入率は有意に増加しており,全身でのインスリン抵抗性は改善していたことも見出されています.

また,骨格筋でのブドウ糖取り込みはSGLT2阻害薬投薬群で有意に増加しており,骨格筋における異所性脂肪の減少とともに,骨格筋でのインスリン抵抗性が改善することが明らかとなっています.

こうした報告によって, SGLT2阻害薬は,尿糖排泄の促進による血糖降下作用を有するだけでなく,血中インスリン値を低下することによって,脂肪組織に対しては脂肪分解,血中遊離脂肪酸増加を引き起こし,脂肪サイズ,脂肪量を低下させることが示されました.

また,肝臓では糖新生が増加する一方で,遊離脂肪酸の増加に伴うβ酸化の亢進,脂肪合成減少により脂肪肝を改善し,骨格筋では異所性脂肪を減少することでインスリン抵抗性が改善することが明らかとなっています6) .

肝臓における糖新生が充進しているのは,肝臓でのインスリン抵抗性が増悪しているのではなく,インスリン/グルカゴン比が低下することで起こる2次的な変化と考えられています. SGLT2阻害薬には脂肪肝改善効果が期待されており,実際に肝臓におけるインスリン抵抗性がどのように変化しているかは,今後さらなる検討が待たれます.

臨床研究においてもSGLT2阻害薬のインスリン抵抗性改善作用が示されています.2型糖尿病患者を対象に,SGLT2阻害薬投薬群とプラセボ群で投薬2週間後にグルコースクランプ試験を行った結果,尿糖排泄分を補正した後でも骨格筋におけるブドウ糖取り込みは投薬群で有意に増加し,骨格筋においてインスリン抵抗性が改善していることが報告されています7) . また,2型糖尿病患者を対象に,SGLT2阻害薬投薬前,単回投薬,4週間連日投薬後に,各々5時間の食事負荷試験を施行し,ダブルトレーサー法で全身での糖代謝が検討され,食事負荷試験中の尿糖排泄分を補正した糖取り込み率が,単回投与で有意に改善しており,4週間後も改善傾向であったことが報告されています8) .

以上のように基礎実験においてもまた臨床検討においてもSGLT2阻害薬のインスリン抵抗性改善作用が示されています.

 

参考文献
1) Kaneto H, et al : Appropriate therapy for type 2 diabetes mellitus in view of pancre-atic /3 -cell glucose toxicity: “the earlier, the better”. J Diabetes, 8: 183-189, 2016

2) Matsuoka TA, et al : Preserving Mafa expression in diabetic islet /3-cells improves glycemic control in vivo. J Biol Chem, 290: 7647-7657, 2015

3) Shimo N, et al : Short-term selective allevi-ation of glucotoxicity and lipotoxicity ame-liorates the suppressed expression of key /3 -cell factors under diabetic conditions. Biochem Biophys Res Con1mun, 467 : 948-954, 2015

4) Okauchi S, et al : Protective effects of , SGLT2 inhibitor luseogliflozin on pancreatic {3 -cells in obese type 2 diabetic db/db mice. Biochem Biophys Res Commun, 470 : 772-782, 2016

5) Takahara M, et al : Ameliorated pancreatic /3 cell dysfunction in type 2 diabetic patients treated with a sodium-glucose cotransporter 2 inhibitor ipragliflozin. Endocr J, 62 : 77-86, 2015

6) Oba ta A, et al: Tofogliflozin Improves Insulin Resistance in Skeletal Muscle and Accelerates Lipolysis in Adipose Tissue in Male Mice. Endocrinology, 157: 1029-1042, 2016

7) Merovci A, et al : Dapagliflozin improves muscle insulin sensitivity but enhances endogenous glucose production. J Clin Invest, 124 : 509-514, 2014

8) Ferrannini E, et al : Metabolic response to sodium-glucose cotransporter 2 inhibition ~ ・1n type 2 diabetic patients. J Clin Invest, 124: 499-508, 2014

平山医師

医師

Hirayama Takashi

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