ウゴービ®によって、GLP-1ダイエットは、保険適用されるのか?

前回のコラムで紹介された、GLP-1受容体作動薬ウゴービ®について、現時点で分かっていること、そしてなぜ肥満症という疾患に対して、GLP-1受容体作動薬が保険適用されたのか?を中心に、当院なりの考察をしてみました。
まず、処方が可能な医療機関についてですが、どこの医療機関でも保険診療ができるわけではありません。
自費診療しか取り扱わない美容クリニックでは保険診療はできません。保険医療機関でのみ、ウゴービ®の処方が可能です。
保険診療の場合、人によって異なりますが、診療にかかる診察料・検査料・処方・薬剤費などは、自己負担額1〜3割となります。
GLP-1受容体作動薬の処方という点においては、3割負担の方の場合は、要するに70%の値引きになるということを考えると、自由診療での診療に比べて、経済的なメリットはあるとは言えます。
そう思うと、「GLP-1ダイエットが保険適用された!」と喜ぶ人がいるかもしれません。
ただ、GLP-1受容体作動薬ウゴービ®が、肥満症という病気に対して保険適用薬となったということは、厚労省が肥満症という病気が、国として治療が必要な疾患であるという認識のもと、GLP-1受容体作動薬の体重減少効果を認めたということ、そしてその一方で、横行するGLP-1受容体作動薬の不適切処方を正すため、処方に一定のルールを課したという見方もできます。
そもそも厚労省の意図としては、肥満症は万病のもとであり、心筋梗塞や脳血管障害などの生命にかかわる重大な合併症を引き起こす根源であり、肥満を抑制することが結果的に、国民の生命を守りつつ、国家財政を圧迫する医療費の抑制にも繋がると判断したのではないかと考えられます。
そう考えると、保険診療における肥満症の治療の根幹は、ただ単に体重を落とすダイエットではなく、肥満に伴う健康障害の個々の現状を把握しつつ、合併症のリスクの改善、将来起こり得る重大な合併症の予防、早期からの治療介入を行なうことであり、ウゴービ®の処方においては、同時に、処方された医療機関での合併症のチェックや管理・治療をすることが求められることも予想されます。
要するに、個人で勝手にやるGLP-1ダイエットは推奨しないが、
「ドクターが、肥満に関連する合併症の管理や治療をしっかりやるなら、GLP-1受容体作動薬の体重減少効果は明らかなので、保険診療でGLP-1ダイエットをやっても良いですよ」という、いわば「条件付きで、GLP-1ダイエットを保険診療で認めた」形のようにも思われます。
保険診療の大きな特徴としては、7割を税金で賄われているわけですから、何でもかんでも医療費をディスカウントするよ、というものではありません。
あくまで一定のルールに基づいて「適切な診療」とみなされた場合にのみ、保険診療として認める、ということになっています。
保険として認められるかどうかは、残念ながら、我々ドクターや医療機関が100%判断できるわけではありません。
もちろん、ある程度は現場の医師の裁量というのも認められてはいますが、そうは言っても、保険診療が認められるか認められないかの最終的な決定は、診療報酬支払基金という第三者機関に委ねられています。
というのも、保険医療機関は、毎月、レセプトと呼ばれる診療報酬明細書を、診療報酬支払基金に提出し、その審査を経て、承認される仕組みとなっています。
診療報酬支払基金の審査会は、その医療機関が、個々の診療において、その人がどんな病名で診療を受け、いつ、どんな検査を行い、どんな薬をどのくらい処方したのかを毎月、その診療の翌月にチェックしています。
したがって、現場では一旦保険診療として対応したはずの検査や処方が、後日審査会で査定されて、保険診療と認められないということが、しばしば生じます。
例えば、保険適用薬の中には、「○○という薬を処方するためには、△△の検査をして、実施日を明確にしなくてはならない」というルールがあったり、「□□という薬は、初診時には処方できない」などの制限が設けられている処方薬もあり、それを守らないと、保険診療としては認められない、というものもあります。
したがって、医師から指示された定期検査を、「面倒だから」あるいは「お金をケチりたい」などの個人の勝手な都合で検査を拒んで薬だけを処方してもらおうとしたり、自分が欲しい容量を、欲しい本数だけ処方してもらおうとしたりなど、決められた診療ルールに逸脱するような場合や、不自然な処方が続くと、その処方が保険診療と認めてもらえず、あとから全額自己負担を迫られる可能性がありますので、注意が必要です。
以前のコラムでもあったように、
①BMI27以上で、2つ以上の肥満に関連する健康障害が生じている場合、
②BMI35以上
が、ウゴービ®のの肥満症に対する保険適用の要件となっています。
保険診療でウゴービ®を処方するとなると、①の場合、処方の前に、体組成う測定、内臓脂肪測定、血液検査・超音波検査・心電図・睡眠時無呼吸症候群の検査などが必要となる可能性が高いと言えますし、②の場合でも、同じような検査を定期的に実施して、合併症の管理や予防・治療を行うことが求められると考えておいた方が良いかもしれません。
もちろん、これは、肥満症の人にとっては、ウゴービ®の処方を中心とした保険診療によって、健康管理をしっかりしながらダイエットもできるという面で、大きなメリットであることは間違いありません。
なお、ウゴービ®の保険診療の適用要件については、正式な保険収載に至るまでは、現時点で厚労省が明らかにしている以外の要件が追加されたり、変更される可能性もあります。
また、ウゴービ®に限らず、審査会の裁量によっては、正式な適用後にも予告なく要件が厳しくなったり、多少の地域差が生じる場合もしばしばありますので、その点は留意しておく必要があります。
今後、もし現状の適用要件から大きく変更がある場合は、随時このコラムでも情報を更新していきますので、気になる方は引き続きチェックして下さい。