人生最後のダイエット

GLP-1の発見と製剤開発 アメリカドクトカゲがもたらした恩恵

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、人体において非常に重要な生体ホルモンです。
GLP-1は、食後の血糖上昇に応じて膵β細胞のインスリン分泌を促進し、一方で血糖上昇作用のあるグルカゴン分泌を抑制します。
また、胃内容物の排出を遅くし、中枢神経系を通じて過食を防ぐ作用もあります。

GLP-1の分解とその問題点

GLP-1は体内でDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)という酵素によって速やかに分解され、半減期はわずか1~2分です。
これにより、GLP-1の効果は短時間で失われてしまいます。
この問題に対する解決策として、以下の2つの方法があります。

1. DPP-4阻害薬:
DPP-4の活性を阻害することで、生体内のGLP-1を長持ちさせます。

2. GLP-1受容体作動薬:
GLP-1の構造を改良し、分解されにくくすることで、持続的な効果を得られるようにした注射薬です。

GLP-1受容体作動薬の開発と歴史

GLP-1受容体作動薬の開発は、多くの科学者たちの努力と発見に基づいています。
以下に、その歴史を詳しく掘り下げてみます。

インクレチンの発見

GLP-1の発見は、インクレチン研究の一環として始まりました。
インクレチンは、小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進するホルモンです。
インクレチン効果は、口から摂取したグルコースが静脈内投与されたグルコースよりも強力にインスリン分泌を促進する現象から明らかになりました。
この現象は1960年代にBersonとYalowによりラジオイムノアッセイ(RIA)の開発によって証明されました 。

GLP-1の特定

1970年代には、GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)というインクレチンが発見されましたが、GLP-1の特定にはさらに時間がかかりました。
1980年代後半、腸管で分泌されるGLP-1が特定され、その強力なインスリン分泌促進作用が明らかになりました。
GLP-1(7-37)やGLP-1(7-36 amide)といった活性形態が見つかり、これらがインスリン分泌を促進することがわかりました 。

アメリカドクトカゲとexendin-4

1992年、John Eng教授はアメリカドクトカゲの毒液からヒトGLP-1と類似のペプチドであるexendin-4を発見しました。
この発見により、GLP-1受容体作動薬の研究が飛躍的に進展しました。
exendin-4はDPP-4による分解を受けにくく、長時間作用する特性を持っていたため、糖尿病治療薬としての可能性が高まりました 。

バイエッタの開発と発売

バイオベンチャーのアミリン社とイーライリリー社が共同で開発したエキセナチド(商品名:バイエッタ)は、世界初のGLP-1受容体作動薬として2005年に米国で発売されました。
これは、exendin-4をベースにした薬であり、糖尿病治療において新たな選択肢を提供しました。
日本では2010年に発売開始となり、以来多くの患者に使用されています 。

まとめ

GLP-1受容体作動薬は、血糖値を下げるための重要な治療薬です。
消化管ホルモンであるGLP-1の作用を利用して、インスリン分泌を促進し、血糖値をコントロールします。
GLP-1受容体作動薬の開発は、アメリカドクトカゲの毒液に含まれるペプチドからヒントを得て行われ、その後の研究と改良によって多くの糖尿病患者に恩恵をもたらしています。

現在では、エキセナチド以外にも、複数の製薬会社から様々なGLP-1受容体作動薬が発売されており、糖尿病治療薬の中心として使用されるようになってきましたが、ここに至るまでには、発見から開発までの長い歴史があることが分かります。

健美クリニックでは、専門医の指導のもとでGLP-1受容体作動薬を適切に利用し、患者の健康管理をサポートしています。GLP-1受容体作動薬の使用に関する正しい知識と理解を持ち、健康な生活を目指しましょう。

 

参考文献
Diabetes Care: “Incretin-Based Therapies for Type 2 Diabetes Mellitus: Pancreatitis, Pancreatic Cancer, and Thyroid Cancer: A Review” Link
Nature Reviews Drug Discovery: “Incretin-based therapies for type 2 diabetes: Mechanisms and potential risks” Link
The Lancet Diabetes & Endocrinology: “REWIND: The Effects of Dulaglutide on Major Cardiovascular Events in Patients with Type 2 Diabetes” Link
Journal of the American Medical Association (JAMA): “Cardiovascular and Renal Outcomes with Efpeglenatide in Type 2 Diabetes” Link

平山医師

医師

Hirayama Takashi

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