GLP-1のダイエット効果について
The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE
JULY 2, 2015 より紹介します。
肥満は健康をおびやかす極めて重要な慢性疾患の一つです。減量を生活習慣の改善のみにて維持していくことは困難です。リラグルチド(glucagon-like peptide-1 analogue;GLP-1)は、毎日皮下に3.0mg 注射することで体重管理に有益な結果をもたらすことがこの論文で示されました。
この検討は、56週間、ダブルブラインド(被検者が薬剤を用いているのか、用いていないのか分からない状態)で、BMIが30以上の2型糖尿病を有さない肥満患者とBMIが27以上の脂質異常症や高血圧を有する肥満患者の合計3731名でおこなわれました。3731名の肥満患者を無作為に2:1に割り付け、2487名の肥満患者にはリラグルチド(GLP-1)3.0mgを毎日投与し、残りの1244名の肥満患者にはプラセボ(偽薬)を投与しました。リラグルチド(GLP=1)投与群とプラセボ投与群両群ともに、生活習慣の改善のカウンセリングをおこないました。全患者の平均年齢は45.1±12.0歳、平均体重は106.2±21.4kg、平均BMIは38.3±6.4 でした。78.5%は女性、21.5%は男性でした。
結果ですが、リラグルチド(GLP-1)投与+生活習慣改善群において、投与56週間で-8.0±6.7%、-8.4±7.3kgの体重減少を認めました。一方で、プラセボ投与+生活習慣改善群においては、-2.6±5.7%、-2.8±6.5kgの体重減少を認めました。統計的には、リラグルチド投与+生活習慣改善群において、プラセボ投与+生活習慣改善群と比較して有意差をもって体重減少を認めました(P値<0.001)。また同様のことが、血糖値、血圧や悪玉コレステロール値においても示されました。
次に、有害事象つまり副作用ですが、リラグルチド(GLP-1)投与+生活習慣改善群において、吐き気が40.2%、下痢が20.9%、便秘が20.0%、嘔吐が16.3%、消化不良が9.5%の患者に認められました。消化器症状が非常に多いことがよくわかります。一方で、リラグルチド(GLP-1)投与+生活習慣改善群において認められた上記の副作用は、プラセボ投与+生活習慣改善群においても少なからず認められています。吐き気が14.7%、下痢が9.3%、便秘が8.7%、嘔吐が4.1%、消化不良が3.1%の患者に認められました。
結論として、リラグルチド(GLP-1)3.0mg/日の皮下注射+生活習慣の改善は、血糖値、血圧や脂質の改善と医学的に意義ある体重減少をもたらし、生活の質を改善させることが示されました。
この研究において、非常に大切なポイントは、両群ともに生活習慣改善へのアプローチをしっかりおこなっていることだと考えられます。事実、-2.6±5.7%、-2.8±6.5kgの体重減少も-2.6±5.7%、-2.8±6.5kgの体重減少を認めています。これはもちろんプラセボ効果もありますが、生活習慣改善による効果が大きいと考えられます。私個人の意見ですが、逆に生活習慣の改善なくしてリラグルチド(GLP-1)注射をおこなっても、この研究のような大きな体重減少は認められないのではないかと思われます。また、プラセボ投与+生活習慣改善群においても、少ないながら消化器症状の副作用が認められたことも面白いと思います。おそらくこの研究開始時には、リラグルチド(GLP-1)の副作用として消化器症状がきたしやすいことが前もって説明されていたのでしょう。したがって、プラセボ投与群においても何となく気持ち悪かったり、むかつきがあったり感じる患者もいたのではと考えられます。食生活の改善もその原因の一つかもしれません。
さて、この論文に明確に示されたように、消化器症状という副作用はあるものの、生活習慣の改善のもとGLP-1注射をおこなうことで、体重が大幅に減少することがわかりました。実際に欧米や欧州では肥満症患者に保険で使用されています。しかしながら日本では、肥満患者への投与は安全性が確立されていないといった理由で保険適応はありません。リラグルチド(GLP-1)は日本では、2型糖尿病患者にのみ保険適応となっており、最大投与量も1.8mgまでとなっております。したがって、日本国内で使用する場合は自費診療となります。
最後に、リラグルチド(GLP-1)は、ただ使用すれば痩せられる魔法の薬ではありません。正しい知識を有し、豊富な使用経験のある医師が、的確な生活習慣改善アプローチの上でリラグルチド(GLP-1)を使用することで、体重を減少させ、さらに血糖値、脂質や血圧を改善させることができると考えます。