人生最後のダイエット

GLP-1と食欲抑制について(2)

前回のコラムで、GLP-1と食欲抑制についてのお話をしましたが、今回はそのお話の追記です。

 

内因性の腸GLP-1の受容には、求心性迷走神経が重要な役割を果たしています。求心性迷走神経はGLP-1受容体を発現しています。
求心性迷走神経の終末は腸管内分泌細胞の直下まで達し 、 分泌直後の活性型GLP-1を局所で受容できる組織学的優位点をもっています。GLP-1の摂食抑制作用やインスリン分泌促進作用は、求心性迷走神経の切断によって障害されます。

GLP-1が求心性迷走神経を直接活性化するのか、ラット・マウスより単離した求心性迷走神経細胞(NGニューロン)を用いて神経活動(パッチクランプ法、細胞内Ca2+ イメージング法)を評価した研究によると、GLP-1のNGニューロンヘの添加は、活動電位の発火頻度と細胞内Ca2十濃度を上昇させ、このGLP-1反応はGLP-1受容体阻害剤exendin(9-39)で抑制され、GLP-1に応答する求心性迷走神経は約10%でした。

食事因子によって分泌される生理的な腸GLP-1が摂食・糖代謝調節に関与しているか検証するために、2016年Kriefgerらは、GLP-1受容体shRNAを発現するウイルスベクターをNGにマイクロインジェクションし、求心性迷走神経特異的GLP-1受容体ノックダウンラットを作出しました。
この動物は、一回摂食量が増加し、絶食後の再摂食量が増加し、食後のインスリン分泌量が減少しました。
インスリン分泌促進作用に関しては、膵β細胞特異的GLP-1受容体ノックダウンマウスを用いた解析によると、グルコース経口投与後のインスリン分泌は正常でした。
以上より、腸GLP-1は局所ホルモンとしてGLP-1受容体を発現する求心性迷走神経を活性化することで摂食を抑制し、インスリン分泌を促進させていることが明らかとされました。
近年、臓器特異的な遺伝子導入技術を利用して、新たな切り口からの求心性迷走神経の解剖学的および機能的研究が進んでいます。Glp1-ires-CreマウスのNGに、Cre存在下でレポーター遺伝子を発現するウイルスベクターをマイクロインジェクションすることで、GLP-1受容体を発現する求心性迷走神経を可視化することができます。GLP-1受容体を発現する神経の終末は、主に胃のintraganglionic laminar endings (IGLEs ; 縦走筋と輪走筋の間に位置する筋層間神経叢)で検出され、腸の粘膜下層支配はわずかでした。 さらに、invivo Ca2+イメージングによるGLP-1受容体発現求心性迷走神経の活性化評価法を用いたとき、胃の伸展刺激によって活性化され、腸内への栄蓑素注入では活性化はわずかでした。今後腸GLP-1の求心性迷走神経を介した摂食・代謝調節作用の詳細な機序を明らかにするためのさらなる研究が望まれます。

 

当院でGLP-1を利用してダイエットをする場合、食欲抑制効果を期待してビクトーザやサクセンダなどの薬を使用するケースが多いです。

食欲抑制効果については、このコラムのような機序が考えられていますが、実際に使っていく注意点としては、筋肉量の低下です。

食事摂取量全体が落ちてしまうため、結果的に筋肉量が落ちてしまうことになります。

そうなってしまうと、順調に体重が下がってきたとしても、すぐ体重は下げ止まってしまい、いわゆる「停滞期」に陥ってしまいます。

また、GLP-1を使って、減量できたからといって、すぐにやめてしまうと、結局はすぐに食事摂取量が元に戻ってしまうので、リバウンドを引き起こしかねません。

GLP-1ダイエットを成功させる上での重要なポイントの一つは、「食事摂取量は落としても、バランスよく食べること」です。特に、糖質の摂り過ぎは、肥満ホルモンのインスリン分泌を惹起するため、糖質は控えめにするべきですが、一方でタンパク質や良質な脂質をしっかり摂取することは、代謝維持のために必要となってきます。

また、GLP-1ダイエットを成功させる上での重要なポイントの二つ目は、「体重が落ちたからと言ってすぐにやめないこと」です。

GLP-1を使って、食事摂取量をコントロールできたら、その状態を薬がない状態でも継続できる必要があります。そのために、GLP-1の投薬量を徐々に漸減していって、「慣らしていく」ことが必要です。

 

GLP-1の食欲抑制効果に頼り過ぎず、自然な形で、適切な食事摂取を目指す。それが理想のダイエットと考えます。

平山医師

医師

Hirayama Takashi

いつでも安心して、専門医に相談できるクリニックで、健康的なダイエットをサポートします。