人生最後のダイエット

ダイエットと食に関わる腸内環境について

近年,「腸内環境」とか「腸内フローラ」という言葉をよく耳にするようになってきた,という人もいらっしゃるかもしれません.
また,ダイエットに関しては,「やせ菌」「デブ菌」という言葉が関係すると言われていたりします.
実際,私自身も,2021年の内科学会総会に参加した際,腸内細菌と内科疾患に関するシンポジウムに参加して,近年のこの分野に関する研究が盛んになっていることに改めて驚かされました.
腸内細菌叢については,民族や地域ごとに特徴的な細菌叢が形成されるため,海外のデータが日本人に当てはまるとは限りません.
また,日本国内においても居住地域によって細菌叢が変わる可能性もあり,まだまだ未知の部分が多いのですが,腸内環境は「食」に関わるところも大きく,そういう意味ではダイエットと無関係なものとして考えるわけにはいきません.
そこで,今回は日本人の腸内細菌叢の特徴について,お話してみたいと思います.

日本人の腸内細菌叢は,興味深い代謝経路が明らかになっています.日本人の腸内細菌叢には食物繊維を発酵させるいわゆる善玉菌が多くみられ,日本人は発酵反応により生じた水素を利用して酢酸を生成する遺伝子を多くもっていることが特徴のようです。
健康な日本人106人と欧米,中国など11カ国755人の糞便腸内細菌叢のメタゲノム解析の結果が発表されていますが,他の国と腸内細菌叢が大きく異なり,日本人の腸内細菌叢は独特なグループであることが明らかにされました.ヒトゲノム解析の結果およびGWAS(ゲノムワイド関連解析)情報では,日本人と中国人は類似したゲノム情報でしたが,腸内細菌叢は遠い距離にありました.
一方,中国と米国は,ゲノムワイド関連解析情報が類似しないにもかかわらず,腸内細菌叢が比較的近い距離にありました。

 研究からは、同じ国の被検者同士は、比較的近い細菌叢を持ち、国ごとにクラスターをつくる傾向があるようです。実際に、同じ国の被検者間の類似性が、異なる国の被検者間の類似性よりも有意に高いことが示されました。裏を返せば、菌種組成から、その被検者の国を推定できることを意味していますが、実際に日本の場合は、ほぼ100%の確率で菌種組成から推定可能というデータがあり、日本人の腸内フローラが、他国に比べて独特であることを示しています。

“ディスバイオーシス”は「腸の細菌叢が健康な状態から逸脱すること」を指し多くの疾患の発症や進展の成因あるいはマーカーであると考えられてきました。しかし,最近の研究によって腸内細菌叢の組成には,健康と思われる人々の間であってさえ,大きなばらつきがみられることが明らかになっています.国ごとに腸内細菌叢が異なることは重要な情報であり、日本人の健康や疾病に関する腸内細菌叢を解析していく上では,海外のデータを参考にしながらも、日本人における比較解析がより重要であることを示しています。

 

中国の研究者は,1つの省に含まれる14の区に属する7,009人からなるコホートを対象にして,腸内細菌叢の変動に最も強く関連するのは,宿主の居住場所屁あることを明らかにしています。つまり,ある地域で開発された腸内細菌叢に基づく糖尿病などの疾患モデルが,他の地域では役に立たなかったことを示しました.この情報は重要であり,日本においても地域ごとの腸内細菌叢の詳細データを収集する必要があるかもしれません.民族性が腸内細菌叢に与える興味深いデータもあります.オランダのアムステルダムの住民の腸内細菌叢をメタゲノム解析し,民族間の相違について調査した結果,民族性は腸内細菌叢の個人間での相違の一因となっていることがわかりました。OTUによって主に特徴づけられる主要な三つのグループは,Prevotella属はモロッコ系,トルコ系,ガーナ系,Bacteroides属はアフリカ系スリナム人,南アジア系スリナム人,Clostridiales目はオランダ系に分類されました.このような結果は,民族的に多様な社会において腸内細菌叢研究やその応用を考えるうえで,個人の民族的起源が重要な因子であることを示しています。

 

日本人データと欧・米・中国等の外国11カ国データとの比較解析から,日本人腸内細菌叢はきわめて特徴的であり,①Bifidobacterium属やBlautia属等が優勢で古細菌が少ない,②炭水化物やアミノ酸代謝の機能が豊富である一方で、細胞運動性や複製・修復機能が低い,③食物繊維の発酵により生じた水素が,他の11カ国ではおもにメタン生成に消費されるが,日本人ではおもに酢酸生成に消費される,等の違いや特徴が明らかとなりました。このほか,④海苔やワカメ(の多糖類)を分解する酵素遺伝子が日本人の約90%に保有されているのに対して,他の11カ国では15%以下となり,本酵素が日本人集団に特徴的に広分布していることも明らかとなっています。

 

平山医師

医師

Hirayama Takashi

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