脂質異常症(高脂血症)とは?原因と改善方法について説明します
脂質異常症(高脂血症)とは、血液中の脂質(コレステロールやトリグリセリドなど)の量やバランスが正常範囲から外れた状態を指します。この状態が続くと動脈硬化や心疾患などの生活習慣病を引き起こすリスクが高まります。
本コラムでは、脂質異常症(高脂血症)の原因や改善方法を紹介しています。
そもそも、コレステロールって何?
コレステロールは、細胞膜やホルモンの合成など、人体にとって必要な機能を持つ脂質の一種です。
脂質はいくつかの種類に分けられ、主に脂肪酸から構成されるトリグリセライド、脂肪酸とリン酸から構成されるリン脂質、そしてコレステロールがあります。脂質というと悪者に思われがちですが、これらの脂質は細胞の機能や代謝に重要な役割を担うもので、身体の機能や健康の維持に不可欠なものです。
体内に貯蓄されている脂質の99%はトリグリセライドであり、エネルギーとして細胞に貯蔵され、必要時に燃焼されます。脂肪の貯蔵は、臓器や骨を外部からの衝撃から守る緩衝材として、あるいは熱伝導性が低いことから体温を維持する断熱材としての役割もあります。
リン脂質は、細胞膜の成分であり、水と脂肪を混ぜ合わせる働きがあり、脂溶性ビタミンとホルモンの細胞への出入りを促したり、脂質が細胞膜を通過するのを助けたり、細胞内外の情報伝達を担うものです。
そしてコレステロールも、細胞膜の構成成分であり、細胞膜の柔軟性と安定性を維持するほか、脂肪の消化吸収に関わる胆汁酸、男性ホルモンや女性ホルモンなど性ホルモンや副腎皮質ホルモンの原料、また骨やカルシウムの代謝に関わるビタミンDの前駆物質としての役割があります。
悪玉コレステロールと善玉コレステロール
コレステロールには、「悪玉コレステロール」と呼ばれるLDLコレステロールと「善玉コレステロール」と呼ばれるHDLコレステロールがあります。
LDLコレステロールは、肝臓で作られたコレステロールを全身に運ぶ働きがあり、使わないコレステロールを血管や末梢組織に置いていくので、増えすぎると動脈硬化を起こす原因になるため、悪玉コレステロールと呼ばれます。
一方、HDLコレステロールは、血管の壁などに貯まった余剰なコレステロールを回収し、善玉コレステロールと言われています。
LDLコレステロールが過剰になったり、HDLコレステロールが減ったりすると、末梢の動脈壁にコレステロールがどんどん取り込まれて蓄積され、動脈壁が厚くなります。それを動脈硬化と呼びますが、この動脈硬化を放置すると、脳梗塞や心筋梗塞の原因となってしまいます。
動脈硬化は、脳卒中・心筋梗塞などの重大な病気のはじまり
動脈硬化は、初期には小さな細い血管から障害していきますが、進んでくると脳や心臓など太い動脈で、「粥状(じゅくじょう)動脈硬化(アテローム硬化)」と呼ばれる状態にまでなります。
血管内膜にコレステロールが沈着した泡沫(ほうまつ)細胞が集まると、ドロドロしたアテロームと呼ばれる塊ができ、性状がお粥のようなことから「粥状」と名付けられました。
アテロームが血管内膜にどんどん溜まっていくと、やがて血液が通る隙間が狭くなります。更に、カルシウムがたまって石灰化することで、血管の弾力性が失われ、脆くて破れやすい状態になります。
なお、血管内膜を傷つける高血圧や喫煙、糖尿病・肥満・ストレスなども、粥状動脈硬化を促進する原因となります。
動脈硬化によって血管が傷つけられると、血管修復のために血小板が集まり傷を塞ごうとして、血栓をつくります。この血栓がはがれて血液中を流れ、心臓や脳の血管まで飛んでいって詰まらせてしまうと、心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。
脂質異常症の診断基準と採血結果の見方
生活習慣病としての「脂質異常症」 は、基本的には血液検査を行なって診断します。
・血液中のLDL(悪玉)コレステロールが多すぎる場合
・HDL(善玉)コレステロールが少なすぎる場合
・中性脂肪が多すぎる場合
に脂質異常症とされます。
具体的には、下記が動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022に記載されているコレステロール値とトリグリセライドの診断基準の値です。
総コレステロールが高いと言われた場合は、まずLDLコレステロールが高いかどうかを確かめましょう。もしLDLコレステロールが高ければ、正常な人よりも動脈硬化によって引き起こされる病気のリスクが高いことになります。
実際の個々のリスクは、コレステロールだけでなく、合併している疾患や年齢、喫煙の有無によっても異なりますが、リスクが高い人では、LDLコレステロールをより低い目標値にコントロールすることで、動脈硬化性疾患の発症予防につながることが明らかになっています。
特に、既に狭心症や心筋梗塞をもっている人は再発するリスクが非常に高く、その他にも糖尿病や高血圧、慢性腎臓病などの疾患や、喫煙もリスクを高める要因になりますので、こうした人はLDLコレステロールを特に低く保つ必要があります。薬物療法でコレステロール値をしっかりコントロールしておくことが非常に大切です。
逆に、リスクの低い人ではLDLコレステロールが多少高くても薬物療法を必要としないこともしばしばあります。その場合は、食事療法が中心となります。
脂質異常症を改善するための食事と運動
LDLコレステロール高値に対する食事療法として、飽和脂肪酸を多く含む肉の脂身、内臓やコレステロールの摂取を控え、食物繊維や植物ステロールを含む野菜や海藻類の摂取を心がけることが有効です。
もちろん、効果が十分でない場合には薬物療法を併用し、薬物によりLDLコレステロールを下げることで、動脈硬化性疾患の発症や再発を減らせることが証明されています。
トリグリセライドについても高値であれば、動脈硬化性疾患の発症リスクを高めることが知られています。なお、空腹で500mg/dL以上の著明な高値であったら、急性膵炎のリスクもあるので注意が必要ですが、トリグリセライド異常は、コレステロール以上に食事・運動療法により大きな改善が期待できます。
食事療法では、炭水化物と飲酒量を減らすことが有効であり、ごはんやパン、麺類などの炭水化物を制限し、糖質を含む菓子や飲料、果物を控えてアルコールの摂取を減らしたりする他、青魚に含まれるEPA・DHAと呼ばれるω3脂肪酸を摂取することも効果的です。
その他、有酸素運動を中心とした運動療法も有効で、ダイエットで体重を落とすことも必要です。もちろん食事・運動療法を頑張っても、数値の改善が十分認められなければ、薬物療法の追加が必要なこともあります。
HDLコレステロールはトリグリセライドの上昇に伴って低下していることが多く、HDLコレステロールが低値の場合も、動脈硬化性疾患の発症リスクが高いことが知られています。
この場合、運動療法はHDLコレステロールを上昇させる効果があるため、ウォーキングやベンチステップ運動など中強度の有酸素運動を中心とした運動療法を1日30分、週3回以上を目標に行います。
トリグリセライドを低下させる薬物や、LDLコレステロールを低下させる薬剤には、HDLコレステロールを上昇させる作用がある薬剤もありますが、いずれにせよ動脈硬化による大きな病気を防ぎ、生活習慣を正すのが治療の基本ということになります。