人生最後のダイエット

ダイエットと睡眠時無呼吸症候群

肥満は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群において最も重要なリスクのひとつですが、改善可能です。

ダイエットによって体重を落とせば、上気道の構造的な負担を和らげることにより気道の閉塞を軽減させ、無呼吸を軽減させることに繋がります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者の減量療法については、ランダム化比較試験(randomized controlled trial : RCT)を含む多くの介入研究が行われており、それらの結果を統合したメタ解析も実施されています。

いずれのメタ解析の結果も、一貫して体重減少に伴いAHI値が改善することを示しています。
このAHI値とは、1時間あたりの無呼吸回数を示したものであり、睡眠時無呼吸症候群の重症度の指標となります。

Thomasouliらは、6つのRCTを統合した解析の結果AHI値の改善は4.6であったと報告しています。
一方、Mitchellらは、介入の結果、有意に体重減少がみられたRCTのみを統合した解析を行っており、AHIの改善は16.1でした.

この2つの報告はいずれもRCTに限定したメタ解析ですが、減量療法の効果の推定としてのAHIの改善度合いに大きな違いがあります。
減量療法による体重減少の推定値は、それぞれ5.6kg, 13.8 kgであり、体重減少の大きさがAHI改善の大きさと関連している可能性があります。
いずれの研究も、統合されたひとつひとつの研究のやり方や質が統一されていないバラバラの研究をまとめたものであり、結果の解釈にはいささか注意を要します。

減量療法には、食事療法運動療法の2つの柱があります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者の減量効果を検証した研究においても、このどちらかあるいは両方のアプローチがとられています。

多くの介入研究で用いられている食事療法は、介入初期に食事を液体の栄養補助食品に置き換える構造的な食事療法です。
この栄養補助食品は、減量の際に不足しがちな必須アミノ酸ビタミンやミネラルを十分に含む一方で、エネルギー源になる糖質、脂質を必要最小限にした調整食です。
栄養補助食品後の食事の構成は、National Cholesterol Education Program (NCEP)の推奨に従っている研究列全摂取カロリーの30%以下に脂肪を抑える研究など様々です。

日本では液体補助食品を用いた減量は一般的な減量法として認知されていませんし、これらの研究対象患者のベースラインの体重の平均が100kgを超えており、日本の患者特性と合致しないことから、日本の閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者に液体補助食品を用いた食事療法が適しているかどうかは何とも言えないところでしょう。
そのため、現時点では睡眠時無呼吸症候群のガイドラインにおいては、詳細な方法には言及せず、通常の肥満患者を対象とした減量療法を実施することが推奨されています。

運動療法については、有酸素持久運動筋力型レジスタンス運動を用いる方法があります。

通常、高血圧などの生活習慣病の予防や治療のための運動は有酸素持久運動が有効とされています。
一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群における運動療法は、これらを併用している介入研究が多く見られます。

有酸素持久運動とレジスタンス運動を併用した運動療法により、体重の減少がなくてもAHIに改善がみられることが報告されています。
これは、レジスタンス運動により呼吸器筋が鍛えられ、肺気量が増加したためと考えられ、レジスタンス運動は、減量を介さずに閉塞性睡眠時無呼吸症候群の改善に寄与している可能性があります。
このことより、閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者に対する運動療法は、有酸素持久運動だけでなく、筋力型レジスタンス運動を併用することが推奨されています。

食事、運動といった生活習慣への介入によるダイエット・減量療法は、AHIの改善に有効であることが多くの研究で示されています。
しかしながら、生活習慣への介入のみで体重の10%以上の減量を達成することは難しく、AHIが治療の目標値まで改善するほどの効果は見込めないことがしばしばです。
また、ダイエット・減量療法により閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者の症状である日中の眠気やQOLに改善がみられたという報告はありますが、十分な検証はなされていないのが実情です。
そのため、減量療法は単独の治療法としては十分ではないと考えられています。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者に対する減量が、高血圧、糖尿病脂質異常などの心血管疾患危険因子を改善するという一貫したエビデンスは得られていませんが、OSAに合併する高血圧、糖尿病、脂質異常の改善に有効であることは明らかであり、肥満患者においては各ガイドラインにおいても生活習慣の是正により適正な体重を維持することが推奨されています。

平山医師

医師

Hirayama Takashi

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