人生最後のダイエット

SGLT2阻害剤の降圧効果について

血圧は心拍出量と末梢血管抵抗により規定されています。また血圧にかかわる代表的な調節経路としてRAA系(レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系)などが知られています.

今回のコラムでは、SGLT2阻害薬の血圧改善を示した研究や報告されていることから、なぜ本薬剤にそのような降圧効果があるのかをお話していこうと思います.

 SGLT2阻害薬の降圧効果は実際どの程度なのか?については、まずはSGLT2阻害薬の血圧に与える影響について、27のRCTを用いたメタ解析研究があるので紹介します。この結果ではSGLT2阻害薬投与は有意差をもって,降圧効果を認めたことが示されました.

SBP (収縮期血圧)では‐4.0mmHgの血圧低下を認め,これはSGLT2阻害薬投与群とプラセボ群を比較した研究およびSGLT2阻害薬投与群とその他の経口血糖降下薬剤と比較した研究どちらにおいても同様の結果であり,製剤ごとにおいても‐4.0mmHg程度の降圧効果が得られたという結果でした。またカナグリフロジンのみ用量依存性にSBP低下効果が認められました(ただし本邦では現段階で100mg 1回1錠1日1回の使用のみ保険適用となっています).なお、DBP(拡張期血圧)については、baselineから‐1.6mmHgの低下が認められました.

 

SGLT2阻害薬がもたらす降圧については以下のような機序が考えられています.
SGLT2はグルコースとナトリウムイオン(Na+)を同時に近位尿細管S1セグメントにおいて再吸収する共輸送体タンパクです.これを阻害することで,ネフロン1個体における塩分再吸収量は減少します.また尿中のグルコース量が増加することで,浸透圧利尿作用により利尿薬に似た作用も併せ持っています.ただし,尿中Na排泄効果は投与後13週頃まではプラセボ群に比較して有意に増加しますが,それ以降は正常化するという特徴を持っています。

またSGLT2阻害薬投与初期(開始~12週頃まで)の体重減少は体液量減少に起因するものとされており,この体液量減少と血圧変化との関係を観察した研究はいくつかあります.それらの研究ではSGLT2阻害薬投与開始後約12週目までは体液量,体重減少,血圧低下がすべて認められるものの,12週目を超えると体液量減少は乏しく,血圧低下のみ認められました.これらのことからSGLT2阻害薬投与後12~13週頃までの降圧効果は体液量減少,尿中Na排泄の関与によるが,それ以降の降圧効果についてはまた別の機序があると考えられます。

 

浸透圧利尿,Na利尿による降圧が起こることに対して、ここで1つの疑問が生じます.このときにRAA(レニンーアンギオテンシンーアルドステロン)系はどのように機能しているかということです.体液量減少時また高血糖時には,それに対する反応としてRAA系が亢進し代償的に血圧上昇が起きるようにも思われるからです.ただし,ここで重要になってくるのが尿細管糸球体フィードバック機構(tubuloglomerular feedback : TGF)です.SGLT2阻害薬を投与した場合, SGLT2で再吸収されずにヘンレループの上行脚まで到達したNa+をマクラデンサ(緻密斑)が感知して,輸入細動脈の収縮を起こし,糸球体への血流を減少させ糸球体負荷減少に働きます.つまりRAA系の作用をキャンセルしてくれる機構が働くと考えられています。

 

長期的な面での降圧効果をみると,糖尿病性腎症の進展抑制,腎機能低下の抑止が血圧改善につながると考えられます.これはTGF機構の改善や高血糖改善による糸球体硬化が改善する可能性などが言われています.

基礎実験においてはSGLT2阻害薬が腎臓における組織学的な病変を改善したとの報告がいくつかありますが、SGLT2ノックアウトマウスにおいて,高血糖と糸球体過剰濾過は改善したものの腎の線維化を抑制できなかったという報告もあり,SGL T2阻害薬が糖尿病患者の腎機能に与える影響というのはまだまだ検討が必要のようです.

長期的な降圧効果については,動脈硬化の進展抑制が関与しているとも言われています.1型糖尿病患者において,エンパグリフロジン投与により動脈硬化(脈波速度測定により判定)が改善した研究があります。この結果からは、動脈硬化を抑制することで末梢血管抵抗は改善し,血圧低下につながると考えられますが、なぜ動脈硬化が改善するかはいまだはっきりと解明されていません.

多くの研究において,SGLT2阻害薬投与によって、確かに降圧効果は確認されているものの,短期的な面からと長期的な面からとでは降圧の作用機序も異なってくることがこれまでの研究からは示唆されています.降圧機序の解明や降圧が与える長期的な予後については、今後も検討が必要のようです.

平山医師

医師

Hirayama Takashi

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